Photos by Keiko Sasaoka
宗教や人種を超えて分かちあえる祈りの場にふさわしい、新施設を建造したい。この私たちの志に世界的建築家デイヴィッド・チッパーフィールド氏が賛同して始まった猪名川霊園の建設プロジェクトが、遂に竣工の日を迎えました。およそ4年半の設計・建設期間を経て2017年5月にオープンした、新礼拝堂・休憩棟です。
建築家からのことば
猪名川霊園は、大阪市から北へ約40キロに位置する、兵庫県は北摂山系の急斜面にあります。ひな壇状に構成された霊園の中央を一本の階段がまっすぐに貫き、その頂点に納骨堂が立っています。この階段のラインこそは、建築の配置を決定づける軸線となりました。
礼拝堂と休憩棟は、ここを訪れる人々を祈りのための静かな空間へと誘う場所として設計されています。山の中央階段の延長線上、納骨堂と反対の極をなす地点に、来園者の祈りと休憩のための空間を、中庭を取り囲むように配しました。来園者は屋外のアプローチから、南東面中央の大きな開口部をくぐり、一段上がったこの空間に入ります。
建物の構成としては、すべての機能を一枚の片流れの屋根の下に収め、そのラインが、エントランスから納骨堂を見上げたときの視線に沿うようにしました。休憩棟の部屋はいずれも中庭に開かれている一方、礼拝堂だけは切り離されています。礼拝堂へは専用通路で外から直接入ることもでき、また、中庭から伸びるゆるやかな斜路を上がって到達することもできます。最小限の暖房と照明しかない、無垢で静謐なこの部屋は、宗派を問わない純粋な祈りの場です。礼拝堂を訪れた人々にとっては、庭の両側から間接的に差し込む自然光が頼りとなり、ここで外界から遮断されるにつれ、刻々と変化する光や四季の移り変わりが刻む自然のリズムへと、感覚が研ぎ澄まされていきます。庭はいずれも、日本の野山の色合いと質感を思い浮かべながらつくったもので、精選した種々の山野草や低木を緻密に配しています。
中庭を挟んだ斜め向かいが休憩棟です。低い方の屋根の下に配した二つの大きな部屋は、親族の集いや故人を偲ぶ場として使います。ビジターラウンジは、気軽に休息したり、食事をしたりできる部屋です。メモリアルルームは、布に和紙を重ねた屏風式のカーテンで三つの部屋に仕切ることができ、そこでは法事の後の会食を行います。
建物は床も壁も屋根も、純粋な建築のエレメントとして形づくられています。いずれも赤土色に着色したコンクリートを素材とし、内部の床は磨き仕上げ、回廊の壁と軒下はサンドブラスト仕上げを施して、建物全体を一つの岩の塊のように見せています。家具はすべてこの場所のために特別にデザインし、製作しました。彩色を施したシンプルでカジュアルな木製の椅子、ベンチ、テーブルを、用途に応じて組み替えながら使います。
敷地の両極を結ぶ軸線ともなっている急斜面の階段の真ん中を、山からの水が建物に向かって流れてきます。礼拝堂の脇に位置する、階段の麓の部分に来ると水は速度を緩めて水盤にいったん貯まり、そこから新しい地下水路に落ちて、すぐそばの小川へと向かいます。
2017年5月 デイヴィッド・チッパーフィールド
デイヴィッド・チッパーフィールド
建築家。代表を務めるデイヴィッド・チッパーフィールド・アーキテクツは、ロンドン、ベルリン、ミラノ、上海に事務所を置き、大小施設の内装から公共建築まで幅広く手掛ける。
https://davidchipperfield.com
1953年イギリス、ロンドン生まれ。ロンドン在住。AAスクール(英国建築協会付属建築学校)で学ぶ。1984年にはロンドンのスローン・ストリートにあるイッセイ・ミヤケショップを手がける。1985年、デイヴィッド・チッパーフィールド・アーキテクツを設立。85年にはイッセイミヤケ・プロジェクトのために初来日を果たした。そのほか、トヨタオート京都の「TAKビル」(1990)を設計するなど、80年代後半から日本に優れた業績を残し、また自身はこの時期に日本建築や文化に触れ、大きな影響を受けたと語っている。1997年に数々の賞を受賞した代表作「リバー・アンド・ローウィング・ミュージアム」を手がけ、2009年には19世紀の歴史的建造物を15年の歳月をかけて再生させた「ノイエス・ムゼウム(新博物館)」修復プロジェクトを完成させるなど、数々の功績により、2004年に大英帝国勲章(CBE)を受賞。また2013年には高松宮殿下記念世界文化賞を受賞しているが、同賞のウェブサイトでは、「建築の場所と対話し、歴史、文化など土地の「文脈」を機能的な現代建築に融合する」建築家と紹介されている。近年では2017年ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの改修・増築計画を完成。現在、ニューヨークのメトロポリタン美術館やスウェーデンのノーベル・ハウス等の重要なプロジェクトが世界中で進行中。
この礼拝堂はさながら、
宗派を超えた現代の神殿だと
私は感じています
── 公益財団法人 エターナリカ 理事長 大澤秀行
猪名川霊園の建築を造るにあたって私たちが目指したのは、宗教も人種も超えて誰もが分かち合える祈りの場と、墓地の永遠性にふさわしい感動と安らぎのある建築です。デイヴィッド・チッパーフィールド氏もこの構想に深く賛同されました。私たちが終始互いを尊重し、一切の妥協をせず、施主・設計者・施工者の「三位一体」となっての協働を成し遂げられたことは、この上ない喜びです。そしてその努力は、ランドスケープに見事に溶け込んだ素晴らしい建築として実を結びました。
この礼拝堂はさながら、宗派を超えた現代の神殿のようだと私は感じています。人に優しく、どの宗教でもなく、神仏の住処でありながら人が安らうことができる場所でもある。それは今まで見たこともない建物であり、いみじくも友人のアーティスト、トマス・シュトゥルートが評したように「小さいけれど大きい」のです。そして絶妙なバランスで、それは「優しいけれど力強く」、「神聖だけれど親密」な場所なのです。
建築を生み落とした後、それを慈しみ育てる責任を担う者として、建物の存在価値を更に発展させていくことが私たちの使命です。そして世界中の人が訪れてくださることで、幾世を経て宗教も人種も超えて分かち合える祈りの場となり、その思想が波紋のように広がっていくことを願っています。
公益財団法人 エターナリカ
理事長 大澤秀行
Photos by Yuna Yagi
所在地 | 兵庫県川辺郡猪名川町清水字北谷27番地 >地図印刷 >Google Map |
アーキテクト | ディヴィッド チッパーフィールド アーキテクツ |
建主 | 公益財団法人 エターナリカ |
プロジェクトマネージャー | 川村事務所 |
アソシエイトアーキテクト | 株式会社キーオペレーション一級建築士事務所 |
ランドスケープアーキテクト | 岩立マーシャ+上村景観設計 |
ライティングデザイン | ヴィアヴィッツーノSrl |
構造設計コンサルタント | 佐藤淳構造設計事務所 |
設備設計コンサルタント | 株式会社イーエスアソシエイツ |
実施設計・施工 | 株式会社大林組 |
サイン計画 | 林琢磨デザインオフィス |
家具 | 株式会社カッシーナ・イクスシー |
テキスタイル | 株式会社布 |
霊園総面積 | 144,500㎡ |
敷地面積 | 2,100 ㎡ |
建築面積 | 630㎡ |
延床面積 | 4906㎡ |
素材と仕上げ | 壁・床・天井:赤カラーコンクリートサンドブラ スト仕上げ(内部床テラゾー仕上げ) 内部壁:ベイツガパネル白ステイン仕上げ 扉:オーク無垢材黒ステイン仕上げ 開口部:ステンレスサッシ黒染焼付塗装仕上げ |
設計期間 | 2013年1月〜2016年2月 |
施工期間 | 2016年3月〜2017年4月 |
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